069大正時代の最近のブログ記事



明治期の加計呂麻島での生活を静かな文章で情緒的に描かれている。話し言葉の部分は当時の言葉で書かれていてルビがふられている。島尾ミホ最後の作品なのだが、80代後半の人が書いたとは思えないきれいな文章(80代の人の文章を読むこと自体あまり無いが)。
  島尾ミホは加計呂麻での少女時代、結婚後の東京での時代、平穏を求めての家族での奄美移住、夫の死去後の静かに暮らす時代、それぞれ別の小説に描かれている。東京で生活をしていた時代の「死の棘」で描かれた"狂うひと"のイメージが自分は強く、そして夫の島尾敏雄死去後ずっと喪服(黒い服)で過ごした彼女だが、心の奥底には加計呂麻で暮らしたときの思い出がずっと残っていたのだなと感じされられる一冊だった。
上海時間旅行
―蘇る"オールド上海"の記憶

佐野眞一 他
山川出版社
2010年7月20日

山川が旅行ガイド(?)を出すとこうなるのか!といった感じ。さすが。
幕末の武士から芥川龍之介、李香蘭、記録の残っていない労働者まで、戦前の日本人を魅了した上海を、複数の日本人の視点から紹介する。

それにしても上海にはまだこんなに歴史遺産が残っているんだと驚く。これから数年でほとんど消えるような気もするけど。



*私と「上海」 上海育ちが語る我が青春の"オールド上海" 
*「筆紙をもってつくすべからず」幕末の志士も驚嘆した上海
*文士達の感性が捉えた「上海」の風貌
*[コラム]上海蟹は風流な食べ物 
*「中国のハリウッド」を疾走した川喜多長政と李香蘭 
*数々の日中人間ドラマを生んだサロン「内山書店」 
*[コラム]「上海」はどう描かれてきたか 
*日本海海戦を勝利に導いた 三井物産上海支店長「山本条太郎」一代記 
*それからの阿Qたち―2010年「在上海読書日録」より― 
*上海に行くなら"浴地"へどうぞ
*上海の夜と霧―『阿片王・里見甫』を振り返って 
*20世紀最大のスパイ事件「ゾルゲ」上海へ潜行す
*上海の夜に羽ばたいた悲劇の王女「川島芳子」 
*南進論の入り口は上海だった
*上海娯楽の象徴だった大世界
*私と「上海」 一家三代の上海百年物語
「引き札と広告~八幡商人の華麗なる商い」
近江八幡市立資料館
2006年3月



長崎ぶらぶら節 - goo 映画
長崎ぶらぶら節 - goo 映画
「長崎ぶらぶら節」
なかにし礼/著
2002年10月10日 文春文庫


直木賞の受賞理由がいまいち分からないのだが...

一度は時代に埋もれてしまったひとつの唄が再び、世に出るきっかけというものがこれほどはっきりしているのは珍しい。実在した登場人物たちの生涯は興味深い。

「赤い月」や「兄弟」のような衝撃がほしい。自分が私小説の方が好きというだけなのかな。

失明する運命の女の子は、吹雪の夜に越後の旧家で生まれた。病弱な母に代わって母の妹に育てられたその子は強い意志を持ち、次々に起こる壁を乗り越えていく...という話。

連載当時自分は高校生だった。この新聞小説が大きな反響を得ていることは知っていたのだが、読んでいなかった。毎日新聞を購読していたのだが...今回古本屋で買って読んでみて、話の展開もよく、また読者(特に女性)が感情移入もしやすい内容、ヒットの要因が分かりやすく、興味深かった。

もちろん内容もよく、時代背景、舞台背景(越後の冬、静かで暗い夜)の描写もうまい。失明した少女が感じる夜、静かで冷たい蔵を想像しながら読んだ。都会の人でも、もちろん越後の人が読んでもそれぞれの感じ方は違うだろうが良いと思う。


p.s 読み終えたときにちょうど日本経済新聞の私の履歴書で大蔵敬一氏(月桂冠社長)の連載が始まった。彼は伏見の酒蔵で越後とは違うのだが、彼の生い立ちがこの「蔵」の主人公「烈」の子供の生き方と重なり、興味深かった。



「蔵」 宮尾登美子
1993年9月20日 毎日新聞社
「蟹工船・党生活者」
小林多喜二
昭和28年6月28日発行,平成20年5月15日97版
新潮文庫

楡家の人びと」 北杜夫 新潮社
著者の家族の辿った道を淡々と描く。なんと個性豊かな人々なのだろう。いや、この時代の人はみなそれなりに波乱万丈の人生を過ごしたのだとすれば、平凡な人の特徴をうまく捉えて描いているというのが正しいのかもしれない。
中学3年~高校1年にかけて北杜夫の本を軽いものから順に読みまくった。あのときなぜ読まなかったのだろうか。「輝ける碧き~」ほどではないが彼の傑作だろう。それに北杜夫を知るにぴったりの本(彼の話は後半にちょっとしか出てこないが)。
天皇の料理番
杉森久英
1979/12
読売新聞社
福井県武生に生まれた田舎の少年が、たまたま食べたカツレツに感動し、料理人を目指して上京する。破天荒な行動ばかりなのだが、興味を持ったことには集中して取り組み忍耐強い性格なのだろう。フランスに留学、多くの人・店にもまれて実力をつけ、宮内庁の料理人にまでなる男の一生を描いた小説。フィクションも混じっているのだろうが、明治から昭和の時代の移り変わり・風俗・文化の描写もうまく絡み合って、読みやすい面白い小説になっている。

主人公以外の登場人物や店舗も実在しており、日本に洋食が入って間もない頃の雰囲気が分かり、現在と比較できて興味深い。意外と現在よりも"本物"である料理も多いし、さすが最高級のレストランだと思わせる描写も多くある。例えばジャガイモは「ポンム・ド・テル(大地のリンゴ)」と呼び、フィレ・ド・ブーフ・ロチ(ビーフフィレをベーコンで巻いてあぶり焼きにしたもの)の付け合せにする時には「シャトー(七角形)に切るか、ジュリアンヌ(細切り)にするかで、先輩と喧嘩をする場面とか。
その後のフランス滞在中の料理の描写(調理部分だけでなく、実際に食した料理の描写)も詳しい。

人公は華族会館(明治の鹿鳴館、日比谷)・精養軒(現在の上野精養軒の前身で築地に有った)、神田の定食屋でどれも雑用(皿洗い・野菜切り)をした後に、フランスに留学する。私費で料理人になる為に外国留学する者は他に居なかった為に珍しがられ、日本で基礎が出来ていることから(基礎しか出来ていないのだが)、有名レストランで修行する事が出来た。パリ滞在中は大使館に勝手に忍び込んで入って食材を盗み生活するなど現在では考えられないことをしながらも、才能努力を認められて立身出世する(給与が上がる)。 その過程には多くの人との別れ(最初の妻を捨てたり、喧嘩別れする先輩、義理立て出来ずに死別する兄など)も有るが、自分の好きな方に進んでいったこと、後ろめたい事も隠さずに生きた事も書かれているのが、ただの「成功者の武勇伝」だけでない作品になっている。