2010年10月アーカイブ

高校ぐらいに読んだ記憶が有るのだが、古本屋で見つけたので再購入。
詳細な記述のために、創作ではなく本当にこの文献が有るかのようにも思える、辻邦生の歴史小説。

具体的な出来事の描写~堺商人とのやり取り、岐阜城での初めての対面、長島掃討、鳥羽での鉄鋼船建設、長篠へ向けての鉄砲製作と訓練、安土でのセミナリオ建設、石山城包囲戦~だけではなく、登場する人物の描写も面白い。目は笑っていない津田宗及、学者に似た佐久間信盛、陽気なオルガンティノ。傲慢なカブラル、思いつめた表情のヴァリニャーノ、運命を子煩悩な荒木村重、抜け目無い羽柴秀吉。日本を初めて訪れるヨーロッパ人という特殊な視点を取ることで、当時の日本の雰囲気が生き生きと伝わってくる。

また、その人物の特殊なこれまでの経歴~~ベネツィアで妻を殺して逃亡、ポルトガル傭兵としてノヴィスパニア(キューバ・ホンジュラスなどの占領地帯)の反乱鎮圧のために戦い苦しんだ後に、船員としてゴア(インド)、マラッカへとたどり着いた~~と人生観が、織田信長やヴァリニャーノの性格を理解するのに役立たせている。「事が成る」ためにはどうすれば良いかを常に真剣に考えているために余人には理解されない焦燥とあきらめが良く書かれている。

自分の知人にいる良く似た人物がいる。「成功者」と「嫌われ者&人気者」である彼らにに対する周囲の評価と、彼らの受け止め方が気になる。真剣に生きる人物は、周囲の大多数の者には理解されていない。多くの者は、彼らがすごいことは分かるが、なぜそうなのかは知らないのだ。本人(もちろん、この小説での織田信長)の孤独は深い。例え周囲には陽気に見えても。

「安土往還記」 辻邦生
1973年4月25日 新潮文庫

失明する運命の女の子は、吹雪の夜に越後の旧家で生まれた。病弱な母に代わって母の妹に育てられたその子は強い意志を持ち、次々に起こる壁を乗り越えていく...という話。

連載当時自分は高校生だった。この新聞小説が大きな反響を得ていることは知っていたのだが、読んでいなかった。毎日新聞を購読していたのだが...今回古本屋で買って読んでみて、話の展開もよく、また読者(特に女性)が感情移入もしやすい内容、ヒットの要因が分かりやすく、興味深かった。

もちろん内容もよく、時代背景、舞台背景(越後の冬、静かで暗い夜)の描写もうまい。失明した少女が感じる夜、静かで冷たい蔵を想像しながら読んだ。都会の人でも、もちろん越後の人が読んでもそれぞれの感じ方は違うだろうが良いと思う。


p.s 読み終えたときにちょうど日本経済新聞の私の履歴書で大蔵敬一氏(月桂冠社長)の連載が始まった。彼は伏見の酒蔵で越後とは違うのだが、彼の生い立ちがこの「蔵」の主人公「烈」の子供の生き方と重なり、興味深かった。



「蔵」 宮尾登美子
1993年9月20日 毎日新聞社
「添乗員騒動記」 岡崎大五
1997年2月25日
旅行人

読んでみたかった..のを10年ぶりに思い出した。古本屋で見つけて。