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天皇の料理番
杉森久英
1979/12
読売新聞社
福井県武生に生まれた田舎の少年が、たまたま食べたカツレツに感動し、料理人を目指して上京する。破天荒な行動ばかりなのだが、興味を持ったことには集中して取り組み忍耐強い性格なのだろう。フランスに留学、多くの人・店にもまれて実力をつけ、宮内庁の料理人にまでなる男の一生を描いた小説。フィクションも混じっているのだろうが、明治から昭和の時代の移り変わり・風俗・文化の描写もうまく絡み合って、読みやすい面白い小説になっている。

主人公以外の登場人物や店舗も実在しており、日本に洋食が入って間もない頃の雰囲気が分かり、現在と比較できて興味深い。意外と現在よりも"本物"である料理も多いし、さすが最高級のレストランだと思わせる描写も多くある。例えばジャガイモは「ポンム・ド・テル(大地のリンゴ)」と呼び、フィレ・ド・ブーフ・ロチ(ビーフフィレをベーコンで巻いてあぶり焼きにしたもの)の付け合せにする時には「シャトー(七角形)に切るか、ジュリアンヌ(細切り)にするかで、先輩と喧嘩をする場面とか。
その後のフランス滞在中の料理の描写(調理部分だけでなく、実際に食した料理の描写)も詳しい。

人公は華族会館(明治の鹿鳴館、日比谷)・精養軒(現在の上野精養軒の前身で築地に有った)、神田の定食屋でどれも雑用(皿洗い・野菜切り)をした後に、フランスに留学する。私費で料理人になる為に外国留学する者は他に居なかった為に珍しがられ、日本で基礎が出来ていることから(基礎しか出来ていないのだが)、有名レストランで修行する事が出来た。パリ滞在中は大使館に勝手に忍び込んで入って食材を盗み生活するなど現在では考えられないことをしながらも、才能努力を認められて立身出世する(給与が上がる)。 その過程には多くの人との別れ(最初の妻を捨てたり、喧嘩別れする先輩、義理立て出来ずに死別する兄など)も有るが、自分の好きな方に進んでいったこと、後ろめたい事も隠さずに生きた事も書かれているのが、ただの「成功者の武勇伝」だけでない作品になっている。