東京近江寮食堂
渡辺 淳子
2017/10/11
光文社
タイトルに釣られて、ブックオフでたまたま手に取った本。忘れた頃にヒマつぶしで読んでみた。
主人公は滋賀に住む定年間際の女性。10年前に失踪した夫からハガキを受取り、有休をとってハガキの消印を頼りに東京にやってきた。
登場人物全員がどこかパッとしない、日々の生活に流される人たち...なのだが、読んでいて心が温かくなる...のは自分がそんな境遇だからか?
出てくる食べ物が(滋賀県出身で東京に住む自分にとっては)良い。
偶然だが、良いタイミングでこの本を読めて良かった。自分の知っている人に置き換えて読んだ。

野いばら
梶村 啓二
2011/11/2
日本経済新聞出版社
使者と果実
梶村 啓二
2013/2/21

破滅につき進む男女。最後の一瞬に幸せをつかむのか...最後に明らかになる事(二人は結び付いたのか)と、最後まで謎に包まれている事(最後に女のとった行動)の両方で、読後の余韻を楽しめる。

舞台は戦前のハルピン、ベルリン、現代のブエノスアイレス、ロンドン。二人のその行動の後に、満州国と第三帝国は消滅し、二人が憧れた"南米のパリ"と呼ばれたアルゼンチンの首都ブエノスアイレスは、華やかな雰囲気を残したまま没落していく。 街やそこに居る人達の華やかさと寂しさを対比させる書き方が良い。

古本屋で安さと装丁に惹かれて買った本だが、良かった。

ダリエン地峡決死行
北澤 豊雄
2019/6/13
産業編集センター
旅人なら憧れる"陸路国境越え"。
その中でも特に困難であることで世界的に有名な、コロンビアからパナマへの陸路国境越えを、コロンビアに在住だった著者は企んだ。この国境は法によって越境が禁止されているわけでは無い。道が無いのだ。国境はジャングルで道が無いだけでなく、麻薬組織や反政府組織の勢力範囲。これまでもこの地域に入った数多くの人が殺されてきたと言う。
だがこれは逆に犯罪者や難民など、何らかの理由でパスポートを持たない者たちが自由の国アメリカへ行くために隠れて越えて行く道。著者は先住民や謎の"越境請負業者"の案内でここを徒歩で越えようとするのだが...
本を読み始めて数ページ。あれ?既読感が...と思ったら、以前一部をネットで読んだ文章だ。彼は数年前からこの文章を出版しようとしていたがなかなか出版社が見つからなかったらしい。今回、満を持してようやく出版されたのだ (これは彼の処女作)。

だが、なぜ出版化に時間がかかったのかと思うほど、高野秀幸さんのミャンマーからインド越境の本のような面白さ。"普通の人"が危険地域に無鉄砲に飛びこんで行く感じが良い(笑)。

先がどうなるのか分からずテンポ良く話は進むので、読み始めると一気に読み切る。"友達の旅行記"と思い読み始めたのだが、そんなものではない。素晴らしい"紀行文"だ。

彼がスペイン語が出来て最後には先住民の人達と信頼しあえたのが、成功の大きな理由だろう(あ、成功したと言っちゃった)。パナマに入ってからの一騒動も興味深い(自分は"そのような体験"をしたことがないので)。

途中のコロンビアに関する解説の部分が冗長に感じたのだが、一般の日本人読者はその知識が無いからきっと必要なのだろう。実際自分もコロンビアやダリエン県についての知識は無かったが、一気に読めたので。これを読んでコロンビア、と言うか先住民の村に行きたくなった。著者はそんな思惑が有ってこれを書いたのではないだろうが。
2019年5月の「私の履歴書」(日経朝刊最終頁)は脚本家橋田壽賀子だった。

終戦後に山形県に食料の買出しに行った際に農家でおはぎを出された時に絶句した著者。田舎の豊かさではなく、そこで嫁入りした女性の苦労話を聞いたという。来たぞ来たぞ、と思いながら興味深く毎日読んだ。

"おしん"は今、BSで再放送されているらしい。リアルタイムでは放送時間帯に自分は小学校に通っていたので観ていないはずなのだが、どこで観たのかなぜだか薄い記憶は有る。アジアの国々のでの、日本のイメージを印象付けたドラマ。日本のテレビドラマ最高視聴率を記録した番組。日本のテレビドラマで一番影響力が有るもドラマの中の一番有名なシーンである最上川を筏で下るシーン。

今回の"私の履歴書"最後の回(5/31)に、著者の思い入れのある作品として"春よ、来い (テレビドラマ)"が挙げられていた (渡る世間は、ではないw)。自分が大学に入り一人暮らしを始めたばかりの時に観ていた朝ドラだ。あぁこれも橋田壽賀子脚本だったのか。いや、1か月これを読んでいて分かったが、これは橋田本人の生い立ちそのままではないか。

たぶん「春よ来い」では触れられていないが、橋田の夫は亡くなり今は広い家で一人暮らしをしている。夫は実家の墓に入ったが、橋田はその墓に入ることは断られ「文學者之墓」に入ることになっていると言う(そんなのが有るのか!)。
ドラマは終わりそうにない。

円周率を計算した男
鳴海 風
1998/8
新人物往来社

悟浄出立
万城目学
2014/7/22
集英社

あれ、自分の知る万城目ワールドではない???と思ったが、こんな文章も書くのか、中国史が好きなんだな。元となる出典の主旨を活かしつつ、独自の世界に引っ張り込むのは流石。
これは中島敦の習作か、芥川の"羅城門"のようなものなのだろうか。

- 短編集で「悟浄出立」のほかに「趙雲西航」「虞美寂静」「法家孤憤」「父司馬遷」の5作。 「虞美寂静」が、聞いた事の有る話をなるほど...と思わせる視点で書いていて良い。「法家孤憤」は創作だろうか、無名の一官吏が主人公なのだが、好き。

追記:と思って検索したら「荊軻刺秦」というのを知った。あの"始皇帝暗殺"の元ネタか。この「法家孤憤」は、同じ読みの別人物がいて...という話なのだが。

ヤノマミ
国分 拓
2010/3/20
NHK出版
アマゾン川上流域の深い森の中で文明前の生活を維持している原住民、ヤノマミ族の集落で数ヶ月にわたって一緒に暮らしたNHK取材班の著者の手記。テレビ番組を作る為にここまでするのかと、こんな暮らしをしている部族がまだ地球上に居るのかという驚き。

10年ほど前にNHKで大反響を得たらしいが、テレビを持たない自分は知らなかった(いや、興味を持たなかっただけか)。知人に薦められて読んだのだが、良かった。

ヤノマミについてネットで調べると、子供が産まれると母親はその子供を生かし続けるか、精霊とするか(首を絞めて殺す)を決める風習についての記事が多く見つかる。産まれたばかりの子供を母親が白アリの巣に入れるのは衝撃だが、そんな単純な話ではない。その時の彼らの無表情な顔を観ても、"文明社会"で生きる自分達では彼らを理解することは到底できない。

著者は取材後に日本に戻ってきてから体調が悪化する。食欲が無くなり、体は小さくなった。まっすぐ歩けなくなり壁に衝突する、夜尿症になった。カメラマンは子供に手をかける夢を見るようになった。 彼らはその理由を、ヤノマミの世界では「生と死」「聖も俗」「暴と愛」が混在していたが、現代社会はそれを見えにくくしている。そのタガが外れたのではないかと考えた。自分は何者でもないのに万能のように錯覚し、人間の本質が善であるかのように、現代社会では考えている。そんな常識(錯覚)が無い世界を見てしまった、のだと。

書評を見ると、テレビ番組を見た人がこの書を読み、より理解を深くしたということを書いていた。自分は逆に今は映像を見てみたい。実際に行ってこの目で見ることは出来なさそうだから。

バグダッド憂囚―商社マン・獄中の608日
吉松 安弘
2010/3/20
NHK出版
イラン・イラク戦争中にバグダッドにプラント輸出の営業で赴任した商社マンが、赴任2か月目にして贈賄で秘密警察に拘束され、一方的な裁判で有罪判決、刑務所に収容される。
贈賄自体も現地採用のスタッフが仕組んだもの。当時のイラクでは企業に雇用の自由がなんと無く、現地採用の従業員には秘密警察が紛れ込んでいたという。

起訴前の秘密警察の拘置所、有罪確定後の刑務所の大部屋や外人房での獄中体験、拷問内容、他の囚人との会話、情報が無い中での会社(本社・現地事務所)、家族、日本大使館の釈放運動、獄中での本人との連絡が取れないことによる齟齬など、興味深い。 彼は精神状態を保つことができたから復帰できたものの、ある日いきなり、外国で刑務所に入れられてるというのは精神的肉体的に"ダメになってしまう"人もいると思う。そもそも犯罪を犯したという意識もないし、昼間に突然車に押し込められて拉致されるという荒っぽい拘束方法もすごい。さらに外部と連絡を取らせないから、家族なども何が起こったのかさっぱり分からず、行方不明扱いになるという状態。

フセイン大統領やバアス党がその後どうなったのかは周知のとおり。解放につながる交渉を行った阿部晋太郎外務大臣の子供は今は総理大臣。このアブグレイブ刑務所は湾岸戦争後にアメリカ軍が運営することになり主従が逆転する(そして米軍によるアブグレイブ刑務所における捕虜虐待で世界的に有名になる)。当時刑務所に居た人たちはその後どうなったのだろう?

天才の栄光と挫折
藤原 正彦
2002/5/1
新潮社
ニュートン、関孝和、ガロワ、ハミルトン、コワレフスカヤ、ラマヌジャン、チューリング、ワイル、ワイルズ。著名数学者の生き方を紹介する伝記なのだが、数学者である著者の紀行文でもある。 偉大な先達、同業者を訪ねて、彼らが過ごした街や家に出向く。こんな目的の有る旅も良い。

名前や業績は現在は世界中で知られていても、生きている間は不遇だった人の何と多いことか。歴史的背景や、彼らがなぜ天才と(今は)されているのかが、数学的知識を持たない者(←自分のこと)にも分かるよう書かれている。

著者の若い頃のアメリカ留学時代を描いたエッセー「若き数学者のアメリカ」を学生時代に文庫本で読んだ。"数学者"の文章はわかりやすいなと思った記憶が有る。
サムライブルーの料理人
西芳照
2011/5/6
白水社
インド独立の志士「朝子」
笠井 亮平
2016/3/25
白水社
「ここは退屈迎えに来て」 山内マリコ 2014/4/10 幻冬舎文庫


明治期の加計呂麻島での生活を静かな文章で情緒的に描かれている。話し言葉の部分は当時の言葉で書かれていてルビがふられている。島尾ミホ最後の作品なのだが、80代後半の人が書いたとは思えないきれいな文章(80代の人の文章を読むこと自体あまり無いが)。
  島尾ミホは加計呂麻での少女時代、結婚後の東京での時代、平穏を求めての家族での奄美移住、夫の死去後の静かに暮らす時代、それぞれ別の小説に描かれている。東京で生活をしていた時代の「死の棘」で描かれた"狂うひと"のイメージが自分は強く、そして夫の島尾敏雄死去後ずっと喪服(黒い服)で過ごした彼女だが、心の奥底には加計呂麻で暮らしたときの思い出がずっと残っていたのだなと感じされられる一冊だった。
いつか旅する人へ
勝谷誠彦
1998/9潮出版社
最後の冒険家
石川直樹 2008/11/21
集英社
気球に乗って太平洋横断を試みた神田道夫氏を描く。彼の"最期の冒険"を最も近くで見ていた著者の、飾らない文章が良い。
神田氏は埼玉県の町の地方公務員だった。最後の役職は給食センター長。有休を利用して気球に乗る。

仕事が終わって家に帰り日本酒を1杯だけ飲みテレビの時代劇番組を見るのが好きな、見た目はあまりにも普通の"おじさん"だが、気球にかける情熱はすごく、熱気球の滞空時間や飛行距離世界記録を持っていた(現在は塗り替えられている)。

高校の時に家の近くを流れる荒川の川下りから始まった彼の"冒険"は、30歳で気球と出会ってからは気球一辺倒となる。富士山越えに始まり、本州横断、東シナ海横断、ヒマラヤ越えと突っ走る。
彼はあまりにもプラス思考(気球に関してだけ)だった。失敗することは考えない彼の最期の飛行は、傍目には無謀なものと映っていたが、彼は恐らくそうとは思っていなかったのだろう。 知る術は無いが。

地球上に人類未踏の地がほとんどなくなった現代の"冒険"は、ルートや方法を変えたりといったものになっている。例えばエベレストには既に多くの人が登っているので、いかに早く登るかとか、誰も通ったことの無いルートで登るとか、無酸素で登る、などだ。"現代の冒険"はその冒険をする者の自己表現の場なのだ。
そう考えると、彼の最期の飛行「自作の気球で太平洋横断」はかなり創造的なものだと言ってよい。藤で出来た籠で、ジェット気流に乗って高度1万mの上空を飛んでアメリカまで行くと言うのは誰も経験していない。しかし酸素も薄く気温は-50℃、そして飛行中はずっと眠れないという環境を耐えられるものなのだろうか。成功は約束されていない、むしろ失敗に終わるのが予想されるものだった。

彼と一緒に一度は太平洋横断飛行を試みた(そして失敗、嵐の太平洋上で着水して九死に一生を得た)著者の、神田氏への思いが詰まった一冊。でも著者は彼の事を賛美しているわけではない。無駄な形容が無い文体、起こった出来事を淡々と書き連ねる文体が良い。
往復書簡
湊かなえ
幻冬舎 (2010/9/21)

はるかなるアフガニスタン
アンドリュー・クレメンツ (著)
田中 奈津子 (翻訳)
講談社 (2012/2/29)
漂流記の魅力
吉村昭
2003年4月10日
新潮新書
シルミド[実尾島事件]の真実
城内康信
2004年5月15日
宝島社

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イスラム飲酒紀行
高野秀行
2011/6/25
扶桑社

飲酒を禁じられているというイスラム教の国で、酒好きの著者が、何としても酒を飲もうと悪戦苦闘する話。
最後まで読むと付く。イスラム教成立時では"酒を飲んではいけない"なんて定められていなかったという事を。
「ワンちゃん」
揚逸
2008年1月10日/文藝春秋

中国人が芥川賞受賞ということで話題になった作品。
著者自らの体験を活かして書かれた短編小説。話の大きな展開は無い、一言で言うと素朴な感じの文章なのだが、それが主人公の性格をうまく描いているのかもしれない。
正直、大きな感動は得られないのだが、いやそれが良いのかもしれない。

沢木耕太郎

登山家の山野井泰史のギャチュンカン(ヒマラヤ)北壁登攀の記録。この登攀数日間は彼の生き方を体現していると言って良く、そこに至るまでの彼の人生を紹介しながら、クライマックスである登頂後の2日間の場面までどんどん引っ張っていく著者(沢木耕太郎)の筆力がすごい。
もちろん書かれているのは、人並みはずれた山野井夫妻の生命力。空気の薄い標高7000mの高さにある、高さ1000mの壁を這い登る二人に吹雪と雪崩が襲い掛かる様子。夜は岩にハーケンを打ちロープを張ってぶら下がって眠る二人は、食欲が無くなり、目が見えなくなり、凍傷で指先が次々やられていく。これは記録小説なのだが、沢木耕太郎の作品にしては珍しく読後の高揚感有り。ギャチュンカンのベースキャンプに行ってみたいと思った自分は変なのだろうか。
戦場のニーナ
なかにし礼
講談社
2007/1/30

天皇の密使
丹羽昌一

メキシコ革命(1914年)のことを知らずに読んでも楽しめる。元外交官が書いたミステリー&アドベンチャー&外交裏事情小説(?)。
題材となる日本人外交官が実在したようで、どんなものなのか面白い。国家間ではなく外交官からの現地報告のような外交資料を基に、こんな小説が書けるというのも面白い。
無鹿 (文春文庫)
遠藤周作
2000年5月
文芸春秋

遠藤周作の短編のような取材日記
高校時代に朝日新聞の配達のアルバイトをしていたのだが、ちょうどその頃に、この「本多勝一集」が朝日新聞社から発売された(これとは関係ないが実家では毎日新聞を購読していた)。

全30巻で2ヶ月に1巻づつ5年間かけて出版という壮大なもので、価格も1冊あたり4000円と高校生にとってはなかなかきついものだったが、興味には勝てず購入した。既に文庫本で20年前に出版されていたなんてインターネットの無い当時は気付かなかったのだ。

ただ、この1冊のボリュームはすごかった。2ヶ月あっても読みきれないくらい。いや、読みきれなかった。その後の自分の思想に影響を与えた本だと思う。

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