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井上靖の私小説「しろばんば」を中学生の頃に読んだ。
著者の幼年時代の体験が子供にも読みやすい文章で書かれていた。著者自らの体験を書く"私小説"というのにも興味を持った。

初めて読んだのは確か小学5年の国語の教科書に載っていた「どんど焼き」の部分。その頃に購読していた"毎日小学生新聞"にその漫画版も連載されていて、舞台である伊豆湯ヶ島の、日本の原風景のような素朴な情景が巧く描かれていたのを良く覚えている。中学1年の教科書にも"しろばんば"は取り上げられていて、教科書に掲載されていた部分の続きを読みたくて書店で文庫本を買ったのだ。

父母と離れて曽祖父の妾と一緒に暮らした小学時代の「しろばんば」に続く、沼津中学時代の「夏草冬涛」、浪人時代の「北の海」と順番に読み進めた。家系図を書き、文章からの地図をつくり現在の湯ヶ島と照らし合わせた。時代は異なるが、自分と同年代の"伊上洪作"の人生に引き込まれていったのだった。

その伊上洪作がそれから30年後に東京で小説家になり、老いた母と対面するのが今回の映画だ。もう見逃すわけにはいかない。



"洪作"は自分は母に捨てられた為に"おぬい婆さん"と暮らしていたと思っていた。血の繋がらないおぬい婆さんと二人での、本家から離れた土蔵での暮らしが洪作(=井上靖)の人格形成に大きな影響を与えたことは本人も認めている。

その母親が痴呆症になり、嫌っていた"おぬい婆さん"の記憶も無くし、夫との思い出も忘れ、息子の自分の事も認識できなくなる。そして著者~小説家として大成し自分も老年に入ろうとしている~は、老いた母親の何気ない会話から真実に気づく...

井上靖ファンには見逃せない映画。逆に興味のない人だと入り込めないのではないかと心配だ。
母親役の樹木希­林が良い味を出している。