モダンなパダン料理店とマスジド

千葉から東京へ戻ってきたのは15時半。レンタカーは翌朝まで借りている。このまま返してしまうのももったいないので、少し休んでから再び車を走らせることにした。向かったのは茨城県。前回のエスニックドライブでもこの辺りを走ったのだが、気になる店をいくつも残したままだった。

19時を過ぎた頃に走っていたのは常総市の石下周辺。そろそろ夕食にしようとGoogleマップを眺めながら面白そうな店を探していると、インドネシア料理店が見つかった。場所は石下駅からそれほど遠くない街道沿い。以前にも何度か通っている道で、昔からの商店や住宅が並ぶ風景の中にその店はあった。

近年、日本各地を車で走っていると外国人経営の食堂や食料品店を見かけることが増えた。古い店舗や居抜きの建物を使って営業している店も多いので、ここもそんな店を想像していたのだが、着いてみると予想とはかなり違った。

まず建物が大きい。そして新しい。店の前には広い駐車場があり、その横には白いマスジッド(イスラム教の礼拝所)が建っている。レストランだけでなく、マスジッドまで含めて一帯が新しく整備されたように見える。日本の地方都市の街道沿いに突然現れるこの一角だけを見ると、ここが茨城県だということを一瞬忘れそうになる。

建物の中へ入ると、レストランのほかにインドネシア食材を扱う小さな売り場もあった。訪れたのは土曜日の夜で、店内には何組かのインドネシア人家族が食事に来ていた。自分の普段の生活ではインドネシア人と接する機会がほとんどなく、常総市、それも石下周辺にこれほど日常的に集まる場所があるとは知らなかった。

料理を注文して、出来上がるまで食料品売り場を覗いてみる。棚にはインドネシアの調味料や香辛料、ココナッツミルク、菓子類などが並び、冷凍庫には魚や加工食品も入っている。規模はそれほど大きくないが、日本の一般的なスーパーでは見かけない商品が揃っていて、近くで暮らすインドネシア人にとっては食材を買う場所としても役立っているのだろう。

自分が注文したのは「ナシパダン」のプレート。

パダン料理は、スマトラ島西部の西スマトラ州を代表する料理で、この地域に暮らすミナンカバウ人の食文化を背景に持つ。唐辛子やさまざまな香辛料、ココナッツミルクを使った肉や魚、野菜の料理をご飯と組み合わせて食べるのが特徴で、インドネシアでは西スマトラを離れて全国各地にパダン料理店があるという。

代表的なのが、牛肉をココナッツミルクと香辛料で長時間煮込んだルンダン。日本で「インドネシア料理」というとナシゴレンやミーゴレンの知名度が高いが、パダン料理はそれらとはかなり印象が違う。いくつものおかずとご飯を組み合わせながら食べるので、一皿の中でも辛味、ココナッツの濃厚さ、肉の旨味、野菜の味が次々と変わる。

この店のプレートも、単に「インドネシア風のカレーを食べる」という感じではない。いくつかの料理をご飯と一緒に少しずつ食べていくのが楽しい。日本ではまだそれほど一般的ではないパダン料理だが、インドネシア料理の幅広さを知るには面白い入口だと思う。

この日接客していたのは、20代くらいに見えるインドネシア人の男女。二人とも「外国人なのに日本語が上手」という程度ではなく、言葉遣いまで自然で丁寧な日本語を話す。対応も感じが良い。店内ではインドネシア人の家族連れが楽しそうに話しているが、騒々しいわけではなく、ごく普通の土曜日の夕食風景だった。

こういう場所を訪れると、「異国」という言葉について少し考えてしまう。こちらから見れば珍しいインドネシア料理店であり、マスジッドであり、異文化を感じる場所なのだが、ここへ来ている人たちにとっては特別な観光地でも何でもない。家族で夕食を食べ、必要な食材を買い、礼拝をする日常の場所なのだろう。

食事を終えて会計へ向かうと、レジの横には持ち帰り用のインドネシア菓子も並んでいた。そして気になっていたのが、店の横に建つマスジッド。会計の際、店員に「見学しても大丈夫ですか」と尋ねてみると、「もちろん、どうぞ、ぜひ」と快く答えてくれた。

扉を開けて中へ入ってみる。

外から見た印象と同じく、内部も新しくきれいだった。礼拝のための空間だけでなく、水回りまで非常に清潔に整えられている。レストランもマスジッドも設備が新しく、トイレにはウォッシュレットまで付いている。地方の街道沿いにある外国人コミュニティーの施設という自分の勝手な先入観とは、ずいぶん違う。

レストラン、食料品店、そしてマスジッド。これだけの施設を新しく造るには当然それなりの資金も必要だったはずで、どのような人たちが中心になってこの場所を作ったのか興味が湧いた。ただ、この日はそこまで詳しい話を聞かなかったので、その背景については分からない。

今回ここを訪れて特に印象に残ったのは、インドネシア料理そのもの以上に、日本で暮らすインドネシア人の日常を少しだけ覗けたことだった。

自分の普段の生活では、インドネシア人を意識して見かけることはほとんどない。それでも常総市には多くの外国人が暮らしていて、こうして家族で食事をするレストランがあり、母国の食材を買う店があり、その隣には礼拝する場所まである。それは外から来た自分に見せるための「異国」ではなく、この地域で暮らす人たちの日常として存在している。

日本の中にある異文化というと、新大久保や横浜中華街のように分かりやすく集積した場所を思い浮かべがちだ。しかし実際には、地方都市の国道や県道を走っていると、何の変哲もない日本の街並みの中に、こうした小さな世界が突然現れる。知らなければそのまま通り過ぎてしまう場所だが、扉を開けてみると、その向こうには自分の知らなかった人たちの暮らしがある。「日本の中の異国」は、案外こういうところにあるのかもしれない。

Padang restraunt & mart

〒300-2716 茨城県常総市大房75-1
不定期休(基本的に毎日営業)
営業:11時~14時, 17時~22時

常総エスニックドライブ
2025/8/30(土)夜


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