スペイン人と成田空港へ

2週間前の月曜日の朝。千葉に行くために新日本橋駅から総武線に乗ったのだが、その日の早朝6時25分に下総中山駅で人身事故が有ったとのことで、ダイヤが大幅に乱れていた。
運休ではなく”遅れ”とのことだったので、特に気にしないでホームに入ったのが間違いだった。 運転本数も減っているようでホームは大混雑だ。総武線だけでなく、横須賀線/東海道線/中央線/なぜか山手線まで連鎖的に遅れが出て、さらに京成線や東西線まで ”旅客集中の為”に大幅な遅れが出ているとのこと。
千葉駅には9時半ごろ着いたのだが、そこで案内表示を眺めている、バックパックを背負った欧米人男性3人組が居た。「成田から飛行機に乗るの?何時のフライト?」と声をかけた。英語でのアナウンス・表示は全く無く、明らかに困っているようだったから。
フライトは12時発との事で、「タクシーで行った方が良いだろうか」と言う彼らに 「いや、そこまでしなくても良い。それに千葉駅は高速道路から遠い。タクシーの方が時間がかかるだろう、お金もたぶん2万円くらい」と答えた。彼らはなんとカナリア諸島から来たという事。3週間の旅行で福岡に入り、広島-大阪-京都-山中湖に主に滞在、かなりの節約旅行とか。
...しかしそこからがうまくいかなかった。成田方面に行く列車が全く来ないのだ。千葉駅のホームの3~10番線の列車のほとんどが東京行など上り列車になっている。案内表示も頻繁に変わる。めちゃくちゃだ。ようやく銚子行の列車が出発したのは千葉駅を10時すぎ。彼らが乗るアエロフロート航空の電話番号を調べて電話をしたところ、搭乗手続きの締切を11時半まで待っていてくれることになった。自分もこのまま彼らを放置するのに不安を感じて、成田空港まで一緒に行く事にした。
ようやく動き出した電車で、彼らの旅の話を聞く。往路はバルセロナ・香港経由で福岡空港で日本に入国し、復路は成田からモスクワ・バルセロナ経由で テネリフェ島へ帰る。 Cathay Pacific Airwaysとアエロフロート・ロシア航空の組み合わせなんて珍しい。
旅行中に日本でどんな食事をしたか尋ねるも、彼らの口が重い。コンビニなどでパンなどを買う事が多かったっぽい。「スペインではこんなでかい肉をいつも食べてるんだ」とジェスチャーで話す彼ら(英語を話すのは一人だけであとの二人とは英語を話す男を介して話す)。
では日本のイメージはと聞くと「すばらしい、人が良い、ホスピタリティーが有る」との事。あまりに絶賛するので「日本人はシャイではない?」と尋ねると「いや、そんな事は無い。静かだけど、誇り(proud)を持っている。こちらから声をかけるとみんな親切に答える。それといつも笑顔だ、怒っている人を一度も見ていない。そうだ今も。」との事。 この最近の20年くらいで日本人は変わってきているのかもしれない。
「でも、旅の最後で初めて電車が遅れてる。たくさん新幹線にも乗ったけど遅延は初めてだ。何が起こったんだ?」と言うので「え、まだ知らなかったのか。今日の早朝に誰かが列車にダイブしたんだよ」と答えた。
「それは自殺と言う意味か?」
「そうだ」と答える僕。
彼は「oh my god!」と言い、スペイン語で3人で話をしている。
きっと自殺するまで追い込まれた見ず知らずの日本人のことを思い、日本の暗い面に触れてしまったことを彼らは話しているのだろう...と自分は思ったのだが、彼の次のセリフを聞き、自分の予想とは少し違う事を知った。
「その男の家族はいくら罰金を払うんだ?」
…まぁそうだな。こんなにたくさんの人に迷惑をかけてるんだし、そう思う方が自然だ。「月曜日の朝は憂鬱になる日本人は多いんだよ」とは全然面白くないだろうから言わなかった。
電車は途中の成田駅でも長時間停車し、成田空港駅に着いたのは11時半を過ぎていた(成田~成田空港の間は京成電鉄と線路が共用ですれ違いに時間がかかる)。改札でも長蛇の列&彼らのレールパスの有効期限が切れていたとか色々なハプニングが相次ぎ、飛行機には結局間に合わなかった。
この便に乗り遅れたのは彼らの他に3人。「ほかの乗客はJRが遅れても間に合ったから」と便の振替に難色を示すカウンター職員に、途中駅ではどうしようもなかった事を伝えて交渉し、翌日の同じ便に無料で変更をしてもらった(バルセロナ~テネリフェはLCCライアンエアなので振替できず)。
この日は成田空港内で野宿するという彼らに、イオンモールへのバスが有ることを伝えて、自分は帰ることにした。「今度はあなたが カナリア諸島に来てくれ。案内する」という彼らに、「facebookでNAKANISHI KEIICHIで検索して」と伝えた(タブレットの電池が切れてしまったので)のだが、1週間経ったがメールは無い。漢字が違う人も含めると同姓同名が数十人居るという事を知ったのは今。