【焼尻島】隠れ家喫茶店のマダム(北海道羽幌町)

「この季節は焼尻島で営業している店は無いから食べ物を予め買って持って行く方が良いよ。本当に不便な島で物価も高いから。あ、でも”おくむら”さんならやっているかな。島に移住してきた人が開いた喫茶店」と焼尻島に行く前に天売島で言われていたので、昼食はそこに行こうと予め決めていた。

焼尻島 | 羽幌沿海フェリー
www.haboro-enkai.com

「”おくむら”さんは商工会に加盟してないから地図には載っていないし看板も出ていないのだけど、役場支所の近くに有る洒落た建物なので行けば分かると思う。道を歩いている人は居ないだろうから人には聞けないけど、島の人なら誰でも知っているよ」という情報でとりあえず向かったところ、すぐにそれと思しき建物を発見。中に入った。

意外な事に男性客が一人いて、店のオーナーと思われる女性とストーブの前の席に座り話している。「あら、お客さん?お食事?」と迎え入れられたのは10畳くらいの部屋。木製の家具、本棚を埋めている本は社会派小説と画集や建築関係の本。店と言うよりは女性の家の居間といった感じだ。
メニューは食べ物は”カレーライス”と”スパゲッティーニミートソース”の二つのみ。飲み物はコーヒーや チャイ(!)などが書かれている。カレーは売り切れたとのことでパスタを注文した。

「ゲストハウスのお客さん!?」と僕に声をかけた男性は島に住む漁師だった。港に帰ってくる漁船のエンジンの音が聞こえてきたところ「なんか貰いに行くか」と席を立って店を出て行った。
パスタは予想外のものだった。人口200人しかいない島にある喫茶店、そもそも経営は成り立たないはず。移住してきた人が趣味でやっている程度の店で「ミートスパゲティ」なのだから味は最初から期待していなかったのだ。見た目で「え?」と思い、口に入れてまた「あれ?」と思った。苦みが有る複雑な味。察した彼女が声をかけた。「美味しいでしょ、スパイスを配合してつくっているの」。

オーナーは建築デザイナーとして東京で働いていた。横浜の関内に住み、都会での生活を楽しんでいたが、札幌の専門学校に講師として来てくれと誘われた。その札幌での生活がつまらく感じたと言う。「田舎に行きたくなったの、本当の自然の有るところ。コンビニが有るような中途半端なところはイヤじゃない?焼尻に来てここにしようとすぐ決めたの」。
「この家はどうしたのですか?」と尋ねると「Xさんに見つけてもらったの。いきなり都会から来た女に家を売ろうって人なんて居ないじゃない。やっと見つかったのがこの家。最初はボロボロの廃屋だったの。Xさんも朽ち果てた家を見せたら、あきらめて東京に帰るんじゃないかと思ってたのよ」(Xさんは島選出の町議で民宿を経営している)

物件を見る前に、島に移住する事は決めて訪島したらしい。建築士の彼女はその廃屋を柱を残してすべて解体し、建て直した。新しい家を建てた方が安いのだが、原生林の前に立つこの家が気に入ったとの事。

島で唯一の喫茶店は目立つ。ガイドブック掲載や取材の話は何度も来るが断っていると言う。「あれ、でも港に置いてあったこの冊子には大きく載ってますよ」と冊子を鞄から出すとそれは観光協会に頼まれたので許可したと言う。

島での生活、島で暮らしている人達の話から話は派生していく。自分の意見をはっきり言う彼女の元に話をしに来る客が何人も居るようだ。
人口が急減していく離島にやって来た初めての移住者(教師や警察官などの転勤者を除いて)は、今のところ自分のペースを乱さず、気ままな一人暮らしを楽しんでいるようだった。
2時間ほど話していると、空が暗くなってきた。島での観光をまだ何もしていない。あ、これが島での観光だ。

【焼尻島】北海道苫前郡羽幌町
【行き方】羽幌港からフェリー1時間。冬季は1日1便。欠航多いので注意。
【人口】198人(2019年) wikipedia

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