【竹の家】離島の港に残る元遊郭の温泉宿/福江島荒川温泉

福江島西部、旧玉之浦町の荒川集落にある「竹の家旅館」に泊まった。五島市の中心となる福江市街からはかなり離れた場所にあり、荒川は現在では静かな小さな港町だ。しかしかつては漁業基地として栄え、しかも温泉が湧く。港のすぐそばに公衆浴場があり、その裏手に建つ竹の家旅館は、戦前には遊郭として使われていた建物だ。

宿に着いてから、暗くなる前に荒川の集落を歩いてみた。丘の上の神社まで上がると、家々と港、その向こうの海まで見渡せる。現在の集落の規模からは想像しにくいが、漁業で人が集まっていた時代には、港で働く男たちを相手にする遊郭も成り立っていたのだろう。

竹の家旅館の魅力は、建物の来歴だけではない。ここには温泉がある。源泉は60℃を超え、湯量も豊富。加温して入るのではなく、むしろ熱い源泉を適温まで冷まして入る温泉だ。浴室には小さな浴槽が二つあり、湯は無色透明。浴槽の壁は鉄分によるものなのか茶色く変色しているが、汚れているわけではない。

適温を保つために蛇口からは常に少しずつ湯が流されていて、宿泊中は24時間いつでも入浴できる。熱ければ自分で水を加えて調整してよい。設備の整った大きな温泉旅館ではないが、すぐ傍にある源泉から湧いた湯をそのまま使っていることがよく分かる風呂だった。

現在は人手がないため料理の提供はなく、宿泊は素泊まりのみで一泊4,000円だった。周辺には夕食を食べられる店は無く、福江であらかじめ食材を買ってきて、自炊して一晩を過ごすことにした。

この日の宿泊客は、自分たちのほかには釣り人が一人だけだった。宿の目の前は港で、そのまま堤防から釣りができる。海を眺めていると、30mほど先でサゴシが海面から飛び跳ねていた。すぐ近くには、網があれば掬えそうな距離をフグが泳いでいる。宿の主人もこの日はカサゴを10匹以上釣ったそうで、それを味噌汁にしていた。

元遊郭の建物に泊まり、源泉掛け流しの風呂に入り、宿を一歩出れば魚のいる海がある。現在の竹の家旅館には旅館料理も華やかなサービスもないが、荒川という港町がどんな場所なのかは、宿の中とその周辺だけでも伝わってくる。

夜中に一度目が覚めた。

せっかく24時間入れるので、もう一度風呂へ行く。深夜に一人で小さな浴槽につかる。60℃を超える湯が今も地下から湧き続け、それを冷ましながら使っている。こういう温泉では、風呂に入ることが宿の付属サービスというより、この土地に泊まっていることそのものの一部になる。
ちなみに、泊まる前には「トイレが水洗ではない」という情報をネットで見かけて身構えていたのだが、1階はすでに改装されており、実際にはウォシュレット付きの水洗トイレだった(2階のトイレは非水洗)。

かつて漁業で栄えた離島の港町に遊郭があり、その建物が旅館として残っていて、今も温泉が湧いている。この宿に一晩泊まると、現在の静かな荒川だけでなく、その場所に積み重なってきた時間まで少し見えてくる。


竹の家旅館

長崎県五島市玉之浦町荒川133-3
TEL/0959-88-2026
素泊/4000円 (変動の可能性有)
日帰り温泉/300円
(2022年5月4日宿泊時の情報です)

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