ハラルショップの裏の小さなマスジッド

この近くにマスジッドがあるはず

坂東市矢作の「JAPAN HALAL MART」で買い物をした後、店員さんに尋ねてみた。
「この近くにマスジッドがあるはずなんだけど?」
Google Mapで調べた時、この場所にはマスジッド――イスラム教徒の礼拝所――があることになっていた。ところが、周囲を見渡してもそれらしい建物がない。僕たち日本人が「モスク」と聞いて想像するのは、ドーム型の屋根や尖塔を持つ建物だろう。少なくとも、どこかに「ここがモスクです」と分かる建物があると思っていた。
しかし、ない。場所を間違えたのだろうか。店員さんに聞いてみると、すぐ近くを指さした。レストラン横の扉。「ここ?」どう見てもモスクの入口には見えない。
言われなければ絶対に分からない。

扉を開けると、そこがマスジッドだった

一言断って、扉を開けてみる。そこにあったのは、6畳ほどの小さな部屋。これがマスジッドだった。立派な祭壇があるわけでもない。椅子が並んでいるわけでもない。装飾もほとんどない。僕がこれまで海外で見てきた大きなモスクとは、まるで違う。部屋に入ると、汗の匂いが強く残っていた。おそらく少し前まで、ここで誰かが礼拝していたのだろう。イスラム教徒は礼拝の際、立ち、頭を下げ、膝をつき、額を床につける動作を繰り返す。夏の暑い日なら、冷房の効いた場所に座っているのとは違う。この部屋に残っていた汗の匂いが、かえってここが実際に使われている祈りの場所なのだということを感じさせた。観光用につくられたモスクではない。この町で働き、暮らしている人たちのためのマスジッドなのだ。

「モスク」と「マスジッド」

日本では一般に「モスク」と呼ばれることが多い。「モスク」は英語などを経由した呼び方で、「マスジッド(Masjid)」はアラビア語に由来する呼称。意味としては、どちらもイスラム教徒が礼拝する場所である。しかし実際にこういう場所を見ると、僕には「マスジッド」という言葉の方がしっくりくる。「モスク」と言うと、東京ジャーミイのような大きな建築物を想像してしまう。けれども、イスラム教の礼拝に必ずしも巨大な建物が必要なわけではない。清潔な場所があり、メッカの方向を向いて祈ることができればいい。だから世界各地には、商店や会社、学校などの一室を使った小さな礼拝場所がたくさんある。坂東市矢作にあったのも、そういう日常の中の祈りの場所だった。

キブラが見当たらない

ただ、一つ気になった。キブラが見当たらないのだ。キブラとは、イスラム教徒が礼拝する際に向くメッカの方向のこと。

マスジッドでは壁のくぼみなどによって方向が分かるようになっていたり、小さな礼拝室なら矢印などで示されていたりすることもある。しかし、この部屋では僕にはそれらしい表示を見つけられなかった。もちろん、ここを日常的に利用している人たちなら、どちらを向けばいいのか分かっているのだろう。僕のような外から来た人間には何も分からない。それもまた、この場所が観光客や見学者のためではなく、ここを使う人たちのためだけに存在している場所なのだと思わせる。

レストラン、ハラルショップ、そして祈る場所

さっきまで見ていたハラルショップを思い出す。パキスタンの米やスパイス。南アジアのお菓子。パキスタン産マンゴー。ハラルの肉。それだけを見ていると、「外国の食材を売っている面白い店」で終わってしまう。しかし、そのすぐ隣にマスジッドがある。そう考えると、この店の見え方も少し変わってくる。イスラム教徒にとって「ハラル」は単なる外国料理のジャンルではない。毎日の暮らしに関わるものだ。食べるものがあり、働く場所があり、そして祈る場所がある。この小さな建物の中に、坂東市で暮らすムスリムの生活の一部がまとまっている。

日本の地方にある「見えない異国」

坂東市矢作を車で走っていても、ここが「パキスタン人街」だとは簡単には分からない。日本の住宅があり、畑があり、中古車関係の事業所がある。その中にパキスタン料理店やハラルショップが点在している。そしてマスジッドに至っては、場所を知っていて探しても見つけられなかった。店員さんに教えてもらわなければ、レストランの横にあるただの扉にしか見えない。でも、その扉の向こうでは人々がメッカの方向を向いて祈っている。こういう場所を訪ねると、「日本の中の異国は、目立つ場所にあるとは限らない」と思う。外国語の派手な看板もなく、観光案内にも載っていない。立派な宗教建築があるわけでもない。それでも、そこには日本とは異なる文化や習慣を持つ人たちの日常が確かに存在している。むしろ僕が見てみたいのは、こういう「見えない異国」なのかもしれない。

そして、まだ朝

マスジッドを出て、再び車へ戻る。この日はまだ始まったばかり。パキスタン人が多く暮らす矢作地区を回り、ハラルショップを覗き、その裏に隠れるようにあった小さなマスジッドまで見つけた。すでにちょっとした海外旅行をしたような気分になっている。しかし、まだ朝食らしいものも食べていない。この後、車を走らせているうちに皆のお腹が空いてきた。そこで予定にはなかった一軒の店へ寄ることになる。この日の異国巡りは、まだまだ続く。

Yahagi Masjid

〒306-0624 茨城県坂東市矢作2649−1
ハラルレストランの建物。
レストランの右側の扉。
(入室には一言断ってからが良いと思う)


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