先月に須賀川市の図書館に行った際、廃本/除籍の本を10円で売っていたので何冊か買ってみた。その中の「海商三代」が興味深い内容で良かった。今から60年くらい前に書かれたもので、もちろん万人向けではないのだが…
江戸末期、能登の寒村を出て北前船の水夫になった少年(忠兵衛)が独立し、幕末の混乱時に事業は急成長する。蝦夷と大坂を結ぶ北前船は運送業者ではなく、買付と販売の両方行う商社だったのが分かる。それもかなりハイリスク&ハイリターンな。
蝦夷で仕入た価格の数十倍で売れることもあれば、海難事故ですべて失う事もある。出発して戻ってくるまでの数か月の間は連絡も取れない上に、売買相場も大きく変動する。
蝦夷や途中の寄港地での仕入れなどは船頭が行うので、船頭は信頼出来る者(親族)でかつ、才能が有る者でなくてはならない。優秀な乗組員を娘の婿に当てたりしていくうちに、家の中で派閥ができていく。一旦は二代目なった息子(忠太郎)が遊び人になり勘当され、その反面教師で3代目を継いだ養子の真面目な青年(忠吉)はやることすべてうまくいかない。3代目を継げなかった実の子供(忠一)は知能も体力能も有ったが意思が弱く…
明治38年に事業をすべて売却する。それでも50万円(現在の価値で数十億円)という莫大な金額だった。しかし、大正から昭和にかけていつの間にか無くなったと言う。
著者は3代目を継げなかった忠一の長男。忠一は事業を子が継ぐことを望まず、むしろ静かな市民生活を送る医師や教師になることを望んだと言う。実際に大正生まれの長男(著者)は大学講師になる。
江戸末期の海運業の実態を書いた本というより、著者のアイデンティティーを探る旅の記録として読んだ方が面白そう。